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書斎

読んだ本のレビューを、三日後に内容を増すれてしまう自分のために書きます。あと君のために。

恋文の技術 森見登美彦

文通ってしたことありますか?

 

この、手書きで履歴書を書いているだけで文句言われるような腐った社会で、ITなるものに支配されようとしている社会で(自分は棚上げ)、手書きの手紙で文通ってしたことあります?

 

てかそもそも「手紙」って今の若い子は知っているのか。

 

昔はですね、紙に文字を書いて(印刷じゃない)、それを伝書鳩という「文通専用鳩」の足にくくりつけてみんな連絡を取り合っていたんですよ。いわば、現在の「電子」の役割を「鳩」が請け負って、そりゃもう世界中の空という空を駆け巡っておりました。

 

 

あらすじ

主人公の守田一郎は石川県能登半島のクラゲ研究所に院の研究で滞在しています。初恋の人へ素晴らしき恋文を書くために、京都にいる大学院の友人たち等と「文通武者修行」と称して恋文の技術を磨いていく、超恋愛ドラマティックウルトラキュンキュンストーリーです。嘘です。ただのギャグ小説です。

 

書簡小説

本著の最後、作者あとがきに書いてあったことかと思いますが、この小説の形態は普通の小説とは違って、主人公が友人等宛に出した手紙の文面だけで物語が進んでいきます。これを書簡小説というらしく、作者は夏目漱石の書簡小説を読んだ時にそれが面白くて書いてみたくなったと仰られていました。片方だけの文面しか僕たちは読むことができないわけですが、なぜか相手の人がどんな文章を書いていたのかというのも頭の中で想像できてしまう不思議な作りになっています。森見さんすごい。

 

炸裂する森見節

森見登美彦さんの作品を読んだことがある方なら共有できる感情だと思いますけれど、この人の作品ってほとんどすべて「森見節」とでも言いましょうか、独特な書き方がありますよね、あれが今回も遺憾無く発揮されています。個人的に、主人公守田一郎のユーモアセンスが大好きで、こいつと文通したら絶対楽しいなと思いました。こうゆう友達欲しいし、いきなり手紙をよこしてくれる奴ってやっぱりこのご時世大切な存在ですよね。久しぶりに伝書鳩見たいしね。この本の見所は、なんといても書く手紙の文末ですね、宛名と締めの文は必見です。

 

これまたユニークなキャラクター

ユニークというよりも、「あれ、こいつ四畳半神話大系にも出てたような、、」って感じのおなじみのキャラクターが登場してきます。四畳半と夜は短しのように全く一緒の人が出てくるという訳ではありませんが、でもやっぱりなんか似てる。多分、森見さんが学生の時にこうゆう友人がいたんじゃないかって密かに確信しています。あと、主人公は本当に研究をしているのか、これは甚だ疑問です。文通武者修行とは私たちが想像しているよりも遥かに厳しいのでしょうか、彼は文通に明け暮れて研究をなおざりにしてしまう節があるようです。大学院生の風上にも置けません。

 

なんだか、一体どんな小説なんだという印象しか与えることができなかったと思いますけれども、なんかクスッとした笑いが欲しいなー、と思いっている方は読むとクスッとした笑いをゲットすることができる本のはずです。

 

みなさん是非読んでください。

 

そして僕と文通しましょう。

 

 

オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎。この人知ってる。

 

なんでだろう。なぜだか全然わからないし、こないだ考えて考えて、「以前にこの作者の本読んだことある!」と思ったんだけれど、それは筒井康隆の『旅のラゴス』っていう本でした。

 

もはや僕の前世が伊坂幸太郎の曽祖母とかなのではないかと思っちゃうくらいです。

 

とにかく、この人の名前を見た時に「これなら絶対面白いと思って読める」とそう直感しました。だってオーデュボンの祈りってかっこいいじゃん。面白そうじゃん。

 

こんなに自分で期待値を上げて読んだ本は初めてで、ウキウキだったんですけど、はじめに最終的な感想を言わせてもらうと、「期待通り面白かった」です。

 

アラスあらすじ

これでもか、というほどに簡略化したあらすじを書きます。主人公が、誰にも知られていない荻島という宮城県付近に存在する島にヒョンなことから連れて行かれ、150年ぶりの「外の人間」として島民と関わっていく中で、殺人事件が起こります。役に立たない警察と、なんでも知っているカカシを失った島で主人公たちが謎解きをしていくストーリーです。

個性的な登場人物

めちゃくちゃ月並みのこと言いますから気をつけてくださいね。

登場人物が全員個性的で惹きつけられる。これに尽きるのではないでしょうか。あと、こいつ死ねば良いのにってこんなに強く思ったことはないくらい嫌いな登場人物も出て来て、僕の感情が忙しかったです。

作品の設定上特殊な人が出て来やすいのかもしれませんが、一般的?な主人公と良い対比になっていたと思います。ゴールデンリトリバーに似ている日比野とかめっちゃ友達になりたいもん。

 

僕は将来仕事を辞めて荻島を探す旅に出ようと思います。そして何かの間違いでアラスカに流れ着いて原住民と一緒にトナカイとアザラシの生肉を食べて生活します。

 

叙述トリックの完成度

実は、この本は前の記事で取り上げた叙述トリックミステリー三作品のうちで一番最近読んだ本なんです。順不同になってしまうけれど、内容覚えているうちに書いたほうがいいと思ったのでこの作品から書いています。

なので、この作品を読む時にはなんとなく叙述トリックってこうゆう感じなんだというのが分かってきたのですが、正直本作品では叙述トリック要素は強くないのかなって思いました。

 

この程度の叙述トリックならテレビでやってるサスペンスにだってよくあるし、わざわざ取り上げる程ではないと思います。ただ、普通にミステリーとして、ストーリーや世界観を楽しむ小説としては非常に面白い。そんな印象。

 

そして三作目にしてまたもや気づいたのは、「僕、叙述トリック好きじゃない」ということ。だって一つ前の記事でも言ったけれど、やはり叙述トリックって括ってしまっている時点で「最後にドンデン返し来ますよ!」という一種のネタバレだし、そうすると「あー、うんうん、なるほどね、そうゆう感じで来るのね、うん」って阿呆の子になっちゃう。

 

まだ叙述トリックミステリー三作しか読んでいない僕様に言わせると、この作品は叙述トリックとかどうでもよくて、作中の誰かに共感できるかどうか、が楽しめるかどうかに直結しています。

 

僕はこの本を読んでいて完全に島の住人になっていたし、なんならいつも主人公の隣で一緒に行動していたつもりでしたので、読み終わった時は島から追い出されたみたいで悲しい気持ちになりました。京王線の電車の中で沈んでいました。

 

とにかく、僕の前世の曽孫である伊坂幸太郎くんのデビュー作『オーデュボンの祈り』、個人的にはとても楽しめました。皆さんも読んだら僕と一緒に荻島を探しに行きましょう。

 

叙述トリック

僕、本を読み始める

マダガスカルという島国に10ヶ月間滞在していた時のことです。

僕は日本で暇な時はアニメを見たり、映画を見たり、お酒を飲んだりしていました。つまり僕の趣味や娯楽というのは今言った三つに限ります。そして、この中でマダガスカルにおいても行えるのは飲酒のみ。私は娯楽に飢えていた。

 

というわけで、小さい頃から毛嫌いしてた読書に取り組むイイ機会だと思い、日本で念のために買っていたkindleをフル活用して日本の書籍を読みました。自分の準備の良さに興奮してしまいます。

 

グーグル先生に「本 小説 おすすめ」って打って検索に引っかかったものを、とりあえず上から読んだりして「んー、これがオススメされる本なのかあ」と阿保の子の典型のような感想を抱いていたのは皆さんもお気づきでしょう。

 

人からのおすすめって正直あまり素直に楽しめなくないですか。

絶対に面白いという感想を抱かないといけない気がして、自分の感情をプロローグの行間に置いたまま存在自体を忘れちゃったりとかしませんか。

しません?僕もしません。でも実際、無理やり「俺もこの本の良さわかるうううう!みんなと同じ感想いだけてるううう!」って、またまた阿呆の子が顔を覗かせるのであまり好きな読書の仕方ではないのだなと、何冊か読んだ後に気がつきました。

 

ということで、自分の読書歴を振り返り、どんなジャンルが好きだったのか分析してみることにしたのです。思い出したのは、中学時の「朝の読書」という毎朝10分か15分くらいの取ってつけたような読書時間のために借りてきた本でした。それがアガサクリスティーの『そして誰もいなくなった』です。いつもは教室に常備してある、アラスカに探検に行った日本人がトナカイの肉やアザラシの肉を生殺しにして原住民と一緒に食べるというトチ狂った薄っぺらい本を読んでいました(かなりトラウマになっていて鹿を見ると若干吐き気がする)が、僕は魔が差して借りてしまったミステリー小説の虜になったことを記憶の彼方から引っ張り出すことに成功したのです。

 

叙述トリックミステリー

ミステリー好きだということがわかった僕は、すぐさまグーグル先生に頼んで「ミステリー 小説 おすすめ」を探してもらうことにしました。

 

インターネットを漁りまくっていると、「叙述トリック」というキーワードに出会います。どうやら数年前に映画化もされた『イニシエーションラブ』とかそういうやつで、作者の書き方次第で最後に急展開というかドンデン返しが待っている、的なトリックです。ある意味この説明自体が大掛かりなネタバレになっているのではないか、とも思えますが普通のミステリーとは一味違ってまた面白そうだったので、叙述トリックミステリーに絞って本を探し何冊か面白そうなものをピックアップしました。

 

  1. オーデュボンの祈り 伊坂幸太郎
  2. 金田一耕助ファイル7 夜歩く 横溝正史
  3. すべてがFになる 森博嗣

 

なんだか聞いたことがある名前ばかりで、叙述トリックミステリー初心者の僕にもとっつきやすそうなものを選んでみました。正直に言って、これもグーグル先生の検索結果を元に人が勧めているものを読んだのであまり期待していなかったのですけれど、しっかり楽しめたものから、やはり「ん?」って思うものもあったので、これからそれぞれ記事を作ってレビューを書いていきたいなと思っています。

 

 読んでね。

 

 

ちなみに、僕はコナンのアニメと金田一のアニメは一話から全部見ている程度のミステリー好きですので、注意してください。

1984年 ジョージ・オーウェル

戦争は平和

 

もうこの文章自体で完全に論理が破綻している。おそらく現代社会(近代以降)に生きてきた人なら納得できない文言ではないでしょうか。

 

本著に出てくる恐ろしいまでの徹底した社会主義社会、というよりも社会主義の次の段階へ進んでいる政治形態・社会形態、の中で「党」が掲げるスローガンの一つです。

 

正直全く理解できなかったし、この語句は単にそれっぽい文を考えて作者が書いているだけだと思っていたけれども、頭が悪い僕は本の中でそれらしい説明をされると納得してしまった。

 

一言でいうと、この本は「そういう社会を描いた作品」って感じです。「そういう」というのは、私たちが共有している常識では到底納得できないような論理を突き詰めて、さらに論理的に完成しているように思わせる、ということを指します。

 

 

そもそも「社会主義」ってマルクスの『資本論』を完璧に読み込まないと理解できなさそうだし、たぶん実際そうだし、なんとなく中高の社会の授業で教えられて到底説明しきれていないであろう説明が、僕たちの知っている社会主義だと思います。

 

なので、この本を読めばなんとなく当時民主主義(笑)を謳っていた西側小説家が書いた社会主義を理解できるのかなと思っていましたが、この本で感じたことは本当に心の底から湧き出る恐怖のようなもの、ただそれだけでした。もちろんオーウェルが本著で描いているような世界が社会主義を極めた社会で現実のものとなり得るのか甚だ疑問ではありますが、そうなっても不思議はないなと思えます。この点でいうと、冷戦で西側陣営が勝利を収めたことに感謝しかない。

 

それともう一つ、「二重思考」という単語が作中によく出てきます。作品の中枢に位置する単語であり、その社会を成立させるには不可欠な思考方法なんですけれど、こっちの方は僕の頭にすっと入ってきました。

 

それはたぶん僕が現実に二重思考の技術を使っているからなのかもしれません。

でもこれは恐らく全員一緒で、なんらかの社会問題に対して僕たち日本人も二重思考を使って生きているのではないかなと僕は思いました。健全な民主主義の下で暮らしていると勘違いしているだけで、徐々に危険思想へ傾倒していっているのか。もしくは、もともと人間というのはそうした機能が備わっているのかもしれません。

 

人間というのは暴力から逃げることはできなくて、自由からは逃げ続け、最終的には「戦争は平和」だと信じて生きていくのでしょうか。

 

でもなぜか、そうであったほうが人間らしいような気がして不思議です。